東京名所案内 / 第一回 / 新宿


東京都新宿区は東京23区のやや西方に位置し、東京都でも特に重要な地区の一つとして位置づけられています。

JR新宿駅は日本最大の規模と乗客数を誇り、駅を境として新宿は東と西の二つに大別されています。東新宿は日本最大の歓楽街である歌舞伎町を有し、西新宿は都庁がそびえ屹立し日本有数のオフィス街とされています。

新宿の放つ、ネオンの華やかさと光彩の濁流と繚乱は、本邦において他に比肩するものは無い、と言っても過言ではありません。鮮やかで心躍り、途切れることの無い光景は目にするものを魅了してやみません。

しかし光源ひとつひとつに目を近づけてみると、どれもこれも全て色褪せ、よどみ、うそ臭く、小汚くにじみ、薄っぺらく、表面と内実のギャップには失笑するしかありません。この現象と構図は東西を問わず新宿全てに例外無く適用されます。というより、この現象と構図において、新宿が象徴的で分かりやすいだけであり、あらゆる都に適用されます。あらゆる、人間が集中しているエリアに適用されます。

一山いくらのヘルスサービス店の放つ、早朝の清浄と完璧に相対する、過剰で下品で扇情的なネオンも、野村ビルの最上階のバーから眺める輝かしく冷徹で容赦の無いオフィスビル群の一定の光彩も、さして変わりません。

明るく希望に満ち溢れたハッピーな未来を躍起になりアピールしてくるコマーシャルを打つ携帯会社の看板の鮮やかで心温まる色合いのオレンジも、路上に座り込み「待ち合わせ場所に来た男がバンプオブチキンのボーカルに似ていると言っていたくせにまったく似ておらず私はバンプオブチキンのボーカルの顔をよく知らないのだけれどとにかく来た男は酷い不細工で調子に乗っており私はソイツが一生忘れられないような罵声を浴びせてやった」という話を一心不乱に携帯電話で誰かに英雄譚のように話す少女の着ている綺麗なオレンジも、さして変わりません。

僕らにとって、とても馴染み深く、その状態でいることがとても楽な姿勢と感情は、いくつかあります。不安であり、絶望です。諦観であり、負荷です。倦怠であり、憂鬱です。新宿の、うそ臭い空と、あの空っぽな光源は、これらと良くフィットし、軽々と僕たちの身体はうなだれ、眼球はたちまちに澱みます。輝きはあっという間に色あせます。

そして、親切といいますか、たちが悪いといいますか、新宿という街は、強襲し侵食する喪失を、簡単には気づかせません。薄い膜を張るように巧妙に潜行し、倦怠を当たり前のものとしてくれます。

一旦染まってしまえば、あとは楽なものです。何も考えず、何も為さず、ただ生きることが出来ます。そうした意味で、新宿は、住むのにとても適した、暮らしやすい街です。






ドメインの管理を異人に任せていたら知らないうちによく分からないことになっていました。「あら、サイトが、夢遊病かしら、一切覚えの無い更新が、□がたくさん!四角を押すと高島屋のサイトに! またはモンゴル大使館のサイトに! 前衛すぎ!」と一通り混乱ののち、苦情。自分でも知らないうちに発狂したのかと思い、さすがに狼狽したものです。

やはりベビーシッターが赤子を秘密裏に折檻する国の機関は信用がなりません。「ベビーシッターが赤子を折檻しているのでは」と疑い隠しカメラを設置するような、他人を信じない、暗黒の、救いがたい国はやはり信用がなりません。これはわたしの聞いたこの上ない悲惨な話なのですが、有色人種の女性ベビーシッターが赤子を折檻しているシーンを、白色人種の男性雇い主が隠しカメラを駆使し撮影、そのビデオテープを突きつけ、「これを公表すればお前の人生は終わりだ」とベビーシッターを脅迫、Adult な折檻に及び耽るという負のスパイラル、悪夢の連鎖、欲望の螺旋階段、インモラル・メビウス・ストラップ、弱い者たちが夕暮れさらに弱い者を叩く、そのような国の機関を頼ったわたしが悪かったのです。ベビーシッターが赤子を折檻するシーンとジャッキー・チェン作品NG集のMAD映像を作成していたのですが、ジャッキーにあまりにも失礼でしたし、ふと我に返ると、あまりにも意味が分からないので止めました。最近のリボーンの展開くらい意味が分かりませんでした。囲碁のルールくらい意味が分かりませんでした。匣?七目半? 匣といえば魍魎の匣は是非キューブリックに撮ってほしかったですよね。彼なら「この匣だが……どこか少数民族の娘を、金銭を駆使し、どうこう、どうにかして、実現できないだろうか?」と作成に現実味を帯びさせてくれたはずなのですが……。早世が惜しまれます。返す返す残念です。木場修はセガールか今夜が山田で、関口はフルメタルジャケットのデブか、悪魔の毒々モンスターの猛毒浴びて変身する前のヒョロい奴で。

まったく関係ないのですが、素晴らしいサイト探しはつくづく釣りに似ているな、と思います。つまり、運と勘と根、です。釣りは人智を尽くしたのち、その場に赴かねばなりませんが、インターネットにおいては、感度が優れすぎている方の寄生虫になれば良いのでまったくイカした時代だぜ、と呟くばかりです。





こんにちは。いささか身体の平衡を崩しておりました。夏、唐突に倒れ一ヶ月の入院ののち、一ヶ月の静養を過ごし、一ヶ月仕事に明け暮れ、一ヶ月静養し一ヶ月仕事、まったくよく分からない日々、仕事と釣りと読書だけに興じる日々に埋没しておりました。その間、時間間隔が全く無く、気付けば今が師走の後半という事実に驚きを隠せません。あのときは確か初夏だったはずが一体……。矢のように月日は過ぎて、というやつでしょうか。

静養中、特に印象に残ったのは、山田風太郎先生の人間臨終図巻と、ヤマメの引きです。執拗に収集され、丹念に整理され、異常な網羅を受け、丁寧に羅列される数々の死に際を眺め、「ああ、人はいずれ100%死ぬのだなぁ、オヒョヒョ」などと当たり前のことを今更ながら他人事のように呟きつつ、垂れ、突如暴発する釣り糸には、逃避と諦観がそれぞれ上手い具合に介在していました。どういうわけか真っ先に襲撃してくるはずの陰鬱は幸運にも影をひそめていたので、釣れんボーイのような惨劇は幸運にも起こりませんでした。

途中、色々あり帰宅してみると、あろうことか PC が盗まれていました。前にこの部屋に住んでていたと思われる中国人の仕業だと思います。鍵は即座に変えましたが恐ろしくて仕方ありません。青龍刀です、青龍刀。関羽です、関羽。盗難届けは出しましたが、まあ、諦めました。それと、隣人が死んでいました。東京のマンションには葬式がありません。

さて、それにより、私の長年の蓄積、文章、画像、映像などが全て見知らぬ他人の手元に落ちるという大惨事に見舞われました。幸い、PC には、ジンの声が入っていたテープレコーダー的な念能力を込め、「三回、起動パスワードを間違えると全データを消去する」設定を施していたため、私の極めてパーソナルかつデリケートな部分が第三者に知られたり、あまつさえインターネットに広く公開されるといったデスゲイズな事態は免れることが出来ました。……出来たと信じたいものです。

その後は、主要メールアドレスからサイトを管理するパスワードから何もかも分からなくなったので懊悩の末、全てを放擲、仕事と読書だけしていました。その間、流行に乗りカラマーゾフに手を出し外人の名前が全く覚えられず断念し発狂する、色々あり友達を全員失うなどの忌まわしい事件も起きましたが、まあまあ平静に過ごしていたと思います。一応、会社の使っていない PC を、あることないこと言い散らし入手、インターネットには興じていたのですが、有用有益には一切使わず、ダンゴムシとコオロギの生態のことばかり調べていたような記憶しかありません。

なお、こうしてまた戻ってきたのは、どういう仕組みなのかさっぱり分からないのですが、SETTOU PC が久方ぶりに戻ってきたからです。屈強な黒人警官の方が電気警棒を出力マックスにしイエローの奴隷受刑者の陰門に挿入する遊びに興じつつ仰られたところには、「起動パスワードがかかっているのを見、諦め、適当に処分したのだろう」とのことでした。なんだかよく分かりません。紛失後の起動の痕跡はありませんでしたが、それはもしかすると、赤子をも平気で殺害するような凶悪・冷酷極まる窃盗団のリーダーの方が、私のDドライブを閲覧後、生まれて初めて見せた他人への温情だったのかもしれません。

先日、旧知の方より久方ぶりに連絡があった途端の帰還となり、なにやら因縁めいたものを感じますが気のせいだと思います。偶然であり、たまたまです。体はだいたい治り、どうやら敦盛くらいまでは生きられそうですが、頭のリハビリはかれこれ四年くらい終わりません。





職場の若い子にDVDや本を乱発気味に貸し、それらの背景にある一貫した流れを少しずつ示唆することにより、極秘裏に僕好みに、簡単でささやかな思想教育を施しています。その甲斐あってか先日、「中野ブロードウェイに連れていってほしい」と向こうから頼んできました。S・O・T・K(スタイリッシュ・オタク)の急先鋒たる僕としては断る理由も無く、中野デートといそしんだのでした。

過剰に晴れた小満の午後でした。彼女はまるで代官山にでも行くかのようなお洒落な格好に身を包み待ち合わせ場所に現れました。今から向かう場所への屈託の無い無警戒さに、僕の眉間はゆがみ、色濃くたしなめの色を帯びました。が、言葉にはしません。五分後には痛感することだろう、と「可愛いね」と言うに留めました。剥離は自ら悟るしかありません。

館内に到着すると、雰囲気が一変し、瞬時に訳が分からなくなりました。その瘴気とも清浄とも取れる空気に困惑する彼女を引き連れ歩き回りました。

「ここがまんだらけだよ、あらゆる、そう、あらゆるカテゴリーのまんがが集められており、その数は二万冊は下らないだろうね、あらゆる、っていう意味は分かるかい、あるいは網羅は? こういうことを言うんだよ」
「ここがレコミンツだよ、非常にナイスな品揃えのイカして狂ったCD&DVDショップさ。僕は暇さえあればここでDVDを物色しているのだよ」
「ここがタコシエだよ、きみが生まれた頃から今に到るまで前衛を貫き続けているソリッドな本屋だよ」
「ここがメイドゲームセンターだよ、全然、何もかも、意味が分からないね」
「ほら!四階の構造の訳の分からなさはまるで初期の女神転生のようだよ!ほら!見るんだ!!」

などと暗雲魍魎蠢く未知の世界を案内し、キュートなあの子が呆然としている中、矢継ぎ早に新しい混乱を与え続けました。なるべく、目の前に展開される新しい価値観と世界について、理解、整理する時間は与えないようにしました。各店舗内では、興味を示したものを自分の知識の限り、簡潔にあるいは粘質に説明し、英才教育に力を注ぎました。最終的には、ここではとても書けないようなスペシャルな本を置いているハードコアな店に置き去りにし慌てさせるなど、僕らは非常に有意義な時間を過ごしました。

館内を一通り案内したのち、僕はこう言いました。

「一時間あげるから好きなものや気になったものや何かに引っかかったものを探したり買ってくるといいよ、僕も好きなものを探しに行くよ、きみはこれから一時間、完全に自由だ」

解放後、どうしたら良いのか分からないままにふらふらと歩いていく晴朗なあの子を尾行しようと思ったのですが、さすがにそれは悪趣味に過ぎるだろう、と見送るに留めました。まぁ、僕には既に、どこまでが悪趣味の境界線なのかが分からなくなっていたわけですが……。加え、尾行に及ばなかった理由を強いて挙げれば、シュレディンガーの猫でしょうか。僕が観察した結果、ヴィヴィッドなあの子の自由意志による行動に影響が出てしまうのでは、これはいけません。僕は、一定の筋道を示し、ある程度の示唆をほのめかすだけです。結果は、あるがままに任せるのみです。結果はさほど重要ではない、という僕の美学に基づいた、という答えも出せるかもしれません。

ともあれ、夏よりは秋が似合うあの子が何を買ったのかは知りませんし、聞きませんでした。何かを買っていたようですが、一切、訊ねませんでした。向こうは何故聞かないのか不思議そうでしたが、けっして興味が無いわけではなく、何らかのいびつな理由からであることは察してもらえたようでした。聡明な子です。

そうこうしていると外はもう暗がりを見せ帷が降りていましたので、吉祥寺に移動し、食事と少しばかりのお酒を嗜み、話をし、僕は中央線の東側に、ひとつに束ねた髪の毛が素敵なあの子は西側に、それぞれ別れました。








レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンのロゴステッカーをべたべたとカートに貼り街を颯爽と駆ける運送屋の青年に聞いたところ、隣に座りぼーっとしている人の日給はなんと6,000円らしい。

隣に座りぼーっとしてる人というのは、僕は運転免許証を所持していないので詳しいところは分からないのだが、先年に「一瞬でも無人路上駐車はダメ〜」と改正された道路交通法により創出された新職業、その名も『助手席に座る仕事』に従事する人である。たまに荷物おろしを手伝っているようだが、それでは車内に人がゼロ、道路交通法違反となりマスターキートンに出てきたような秘密警察の人に捕縛、苛烈な拷問の末、強力な中共のマインドコントロールを受けるか、ホモの看守に散々な目に遭わせられた挙句に獄死に至るか、であるため、基本的に運送屋の青年がバリバリ働いているのを横目で眺め、刹那刹那を過ごす職業の人である。言うなれば防人である。ローマ市民兵であり、SSである。黒母衣衆であり、十字軍である。鷹の団であり、青洲兵である。

インフラが整備され尽くし、餓死の危険性が限りなくゼロに近づき、充分な富があり、あらゆる欲望を包括する余裕の出来た本朝においては、職業の多様化も進み、熟年女装クラブが盛況を極めるなど、何が何だか分からないことになっているのは周知のとおりである。しかしながら、まさか助手席に座っているだけで賃金が貰える時代が到来するとは考えもしなかった。尭舜の民とは彼らを指すのかもしれない。

だが、高度資本主義社会の磨耗品である僕などからすると、あの人たちが一日八時間だか九時間、特に何もせずに助手席に鎮座おわします間、何を考えているのかを想像しただけで恐ろしくなる。たちまちにして精神は震え上がり、あっけなく平衡を失い、とめどなく脂汗は流れ、嘔吐、痙攣、失禁、頓死、見渡す限り惨状の荒野である。一体何を考えているというのか。それとも何も考えていないのだろうか。欲望か、未来か、希望か、復讐か、過去か、希求か、絶望か、懐古か、来世か、哀愁か、性か、混乱か、悪意か、懺悔か、恩讐か、夢か、因果か、悔恨か、全肯定か、殺意か、博愛か、それとも、無、か。まったく定かではない。

ただ一つ確かなことは、運送屋の青年も、そんな「やりがい」「働くことの喜び」「社会への貢献」などの言葉から限りなく縁遠い職業を良しとする人と話すことは一切無いだろうから、車内は事務的なこと以外の会話はゼロであろうことだけである。汗水垂らして働くのは自分のみ、隣には置物のように佇む中年が一人、である。たまったものでは無いだろう。全国の職業ドライバーの方々の、やり場の無い憤怒、声にならない怨嗟、圧倒的な虚無の声が聞こえるようである。心中お察しします。地獄の底の釜の蓋が開く日は近い。

加え、先日などは、興味本位で「お仕事大変ですねぇ」と実験的に助手席の人に話しかけた私が松本人志レベルのシカトを受け、心底驚愕&感動する事件も発生するなど、人心の荒廃は加速度的に進み、日本は乱世の兆しを見せ、暗雲立ち込め、世紀末へ向け突き進んでいくのであった。








聞くところによると、観葉行為、そして観葉植物なんてのがこのアースでは存在し、一部人民の間で隆盛を極めているという。また、よく意味が分からないのだが、ガーデニングなる謎の言葉も飛び出し、人民を迷妄にいざない、世の中を大混乱に陥れているという。庭が進行形で…? え? わかんない。え。え??

さて、この観葉というやつは実に贅沢かつ尊大な行為であるそうだ。なにせ酸素を作り出してくれている偉い植物を、人間の矮小な欲望の赴くまま、随意、配置、加工、設定、切断、破壊し、その犠牲の上で心の平穏を得んと鑑賞したり、実を食べたり、淫靡さを発見しいやらしく眺め回したりするそうなのである。ははぁ、人類、驚異的な命の恩人に対して思い切ったことをしますなぁ、蛮勇溢るるソフィスティケートですなぁ、と皮肉まじりに感心しきりである。人間の傲慢、勝手、ここに極まれりといってよかろう。

大変なのは先方である。植物さん方も必死で光合成をしていたところ、なんか動く知らない大きい奴にじろじろ、或いはにやにやと視姦されては堪ったものではあるまい。強い不快感を憶えているはずである。なんやねん、である。ストレス社会が人間だけの問題だと思ったら大間違いなのだ。監視社会とは旧東側独裁諸国だけの話ではない。水の結晶の声や、大宇宙の意志を理解してしまうような人ならば、「正直たまりませんわー」などの植物先輩方の不満の声、そして「ならばこちらにも考えがある」などと、革命の朝のいななきが聞こえることであろう。世界が植物の大攻勢と思想教育によって赤く染まるのも遠い話ではないのかもしれませんね。

それにしても、植物は本当に偉い。何せ酸素である。酸素を作り出すとは一体どういう了見なのかさっぱりである。どういうレベルのボランティアなのか。恩寵か、博愛か。ギフトか、ドロップか。下賜か、自己犠牲か。一方、我々、血の詰まったズタ袋は、せいぜい二酸化炭素と排泄物を作り出すくらいしかしていない。雲泥の差である。まぁこれはこれで役に立ってるのだろうけれど、酸素には到底及ぶべくもない。酸素!本当に偉い。ノーベル賞ものである。勲一等である。征夷大将軍である。今年の園遊会出席は間違いのないところだ。陛下が王監督の次に挨拶なさるのが植物さんだ。ヒップホップアーティストもこぞって植物さんをリスペクトしたソングを歌うだろう。俺植物先輩のことマジ尊敬しますよ! 枯れても武器として使えるし! 一生リスペクトですよ!

そして私は枯れ木を引っこ抜きぶんぶん振り回しウィーザーを絶唱しながら家路を急ぎ、帰路、職務質問を受け大変な目に遭ったのであった。








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